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[ 小学校英語 ]

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梅本 裕 教授
英語コミュニケーション学科

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Q.2011年度から完全実施される新しい学習指導要領では、小学校に「外国語活動」が新設され必修となります。その背景は何ですか?

 背景を一言でいえば、グローバル化への対応ということです。グローバル化する社会のなかで、日本は国際社会において活躍していかなければいけない。これには政治・文化的な面で活躍しなければいけないという意味と、経済がグローバル化し、さまざまなビジネスを展開するときに英語が必要になるという意味の2つがあります。
  グローバル化のなかで、日本人の英語はどうしても見劣りがすると言われてきました。いろいろな見方はあると思いますが、TOEICやTOEFLなどのスコアを他の国々と比較すると、やっぱり胸を張れる状況ではないことははっきりしています。
  2001年以降、英語が使える日本人、英語が得意な日本人がもっといるといった議論が、財界や政界などからたくさん出てきました。でも、文部科学省は、当初はあまり積極的ではなかったんですね。それはなぜかというと、小学校に英語を入れると、英語教員の養成をきちんとしなければならない。これまではそういうシステムになっていませんので、やろうとすれば、ものすごい手間とお金がかかります。
  では文部科学省はどうしたかというと、現在の学習指導要領に「総合的な学習の時間」がありますが、このなかの学習領域のひとつに国際理解があります。この国際理解領域の学習の中で英会話学習をすることにし、それを「英語活動」と呼ぶようにしました。英語の教員免許をもたない、英語教育の内容と方法の勉強をしていない小学校の担任の教師たちに、それでも英語教育をやってもらおうと、いわば苦肉の策として実施されたものでした。
  しかし、あまりうまくいかない。そこで、教科化できないか、教科化しようということで、だんだんまとまってきました。財界もバックアップし、文部科学省もそうした方向で考えてきました。でも、一足飛びにはいきません。今度の学習指導要領でとった方法が「外国語活動」という教育課程上の新しい領域の導入なんですね。
  国際的な動向を見ても、日本だけが小学校で英語教育を行っていないという状況になっています。中国でも韓国でも小学校での英語教育は熱心に行われていて、今の日本の状況は国際的にはほとんど通用しないでしょう。

Q.「外国語活動」のねらいは何ですか。また、どのように行われるのですか? 「外国語活動」は「活動」という呼称となっていますが、「国語」や「算数」などの「教科」とは異なるのですか?

 外国語活動のねらいというのは、シンプルに言えば、英語に親しむということです。英語の音であるとか、リズムであるとか、英語というものを好きになるということ。それからもうひとつは、英語というものの背景にある文化に親しみ理解すること。大きくはこの2つです。
  学習指導要領には「教科」、つまり国語・算数・理科・社会......というものがあります。ほかにも道徳というものがあり、総合的な学習の時間というものもあります。それに今回、「外国語活動」という領域を付け加えたんですね。外国語活動は、小学校5・6年生で週1時間 (年間35時間)、必修として行われることになりました。外国語活動という名称ですので、論理的には複数言語の教育が行われる可能性がありますが、今度の学習指導要領には「外国語活動においては、英語を取り扱うことを原則とする」とあり、実質的には英語教育が行われることになります。
  外国語活動が教科と異なるのは、教科ですと、小学校の教員免許をもった教師がきちんと指導をして成績をつけますが、活動ですから、活動をやることが目的であって、子どもたちの到達度について評価を行わないということです。この点は大きな違いです。
  実は、外国語活動のねらいを語るのは非常に難しいんです。教育課程上の教科ではないということですから、先ほどのべたように評価もしてはいけないし、中学校で本格的にやる英語と連続性をもってはいけないことになっています。ですから、「読み・書き」は基本的にはやらないで、「話したり」「聞いたり」することで、英語に慣れ親しみ、文化に親しむということがねらいになっているわけです。

Q.「外国語活動」を教える先生は、どんな人たちですか? 小学校の教員免許状をもっていないと教えられないのですか? 大学の教員養成課程は、何か変わる点があるのですか?

 外国語活動を誰が教えるかというと、今度の学習指導要領では、「学級の担任又は外国語活動を担当する教師が行うこととし、授業の実施に当たっては、ネイティブ・スピーカーの活用に努めるとともに、地域の実態に応じて、外国語に堪能な地域の人々の協力を得るなど、指導体制を充実すること」となっています。これは一言でいうと、学級担任が行いなさいということですね。
  「外国語活動を担当する教師」というのは、具体的には中学校の英語の教員免許をもっていて、中学校から小学校に派遣されている教師で、これは今でも行われています。そういう教員を主として念頭に置いている表現です。それから、ネイティブ・スピーカーは、ALTと言ったり、AETと言ったりしています。初めは中学校で導入されましたが、最近では小学校にも派遣されるようになってきています。ただ、このネイティブ・スピーカーは、Visitという表現をよくするんですが、だいたい5つか6つの小学校を1人で順番に回っていくのが通例で、2週間に1回ですとか、地域によっては何カ月かに1回の指導ということもあります。研究指定校などでは少なくとも1人がずっといることになりますが、そういうことは例外的です。あとは、地域で父母のなかに英語ができる人がいるとか、英語圏で長く暮らしていた人にお手伝いしてもらったりするということはあります。
  でも、あまりうまくいかないんですね。なぜなら、担任の教師が国語や算数や社会みたいに1年間の見通しをもって行うことがなかなか難しいからです。総合的な学習の時間でも英語活動がいろいろ行われていますが、全国的に見たら、いい例はまだまだ一部で、全体としては試行錯誤が続いているという状況です。小学校の先生は小学校の教員免許をもっていないとできません。まれに中学校の英語免許ももっている教師がいて、そんな場合には見通しをもった英語活動が展開できることもありますが。
  文部科学省は、外国語活動について「英語ノート」という標準教材をもうすでにつくっています。教科書ではないので使用義務はないのですが、しっかりとした教材システムが用意できない場合には原則としてそれを使用しなさいというものですね。しっかりとした教材システムなんてそうかんたんに整うはずがないので、大学の附属小学校や私立などの特別なところは別にして、現実的にはこの教材を使って英語教育を行うことになりそうです。
  さて、外国語活動がこれからどのように進んでいくかというと、先ほども少しふれましたが、小学校における教科化という流れですね。文部科学省は先ごろ、大学の小学校教員養成課程に「外国語活動に関する指導法を『教職に関する科目』に準ずる科目として、『教科又は教職に関する科目』の中に位置づけた上で、開設することが望まれる」という通知を出しました。文部科学省がこういうことを言うのは、近い将来における小学校英語の教科化に一歩足を踏み出したということでしょう。このような科目を勉強した学生が実際に教師になった段階で教科化する方向を固めたと考えてまちがいないと思います。

Q.「外国語活動」のねらいを達成するのに現場の先生は、どのような教育を実践すれば良いのでしょうか?

 いろいろな困難はあると思いますが、子どもたちにとって意味のある学習活動にすることが必要だと思いますし、また同時にそれが社会にも経済的にも意味があるものになることが望ましいでしょう。私は、「ことばを鍛えていく」「ことばを育てていく」という発想が外国語活動にはだいじだと思います。そういう観点から教材の開発や授業のモデル開発といったものを工夫していきたいと思っています。
 例えば、英語のリズムや発音は、日本人にとってやはりなかなか難しいんですね。でも、何が難しいかがわかると、結構子どもは伸びるんです。日本語の「ねこはねずみをとる」と「うちのねこはそのねずみをとるだろうよ」は9文字と18文字で、発音する時間は後者は前者の2倍になります。これを英語で表現すると、「Cats catch rats」と「Our cat will catch the rat」となり、これも単語の数は2倍になりますが、両者を発話する時間は基本的に同じなんです。それは日本語はひとつひとつの音が粒粒として発音される、一方英語の発音は強く発話されるところが等間隔に出てくる。だから英語にはビートがあって、それがほぼ等間隔に出てくるということを知るだけで聴き取りはものすごく楽になるんです。小学校のときにはそれをことばで教えなくても、リズム遊びで修得できるわけです。
 それから小学校で教えておきたいのは身体語彙の機能ですね。体に関する、例えば「mouth」、口ですね。口の形を思い浮かべて、口に似た形のものが「mouth」だと意識できれば、瓶の口は「mouth of the bottle」となりますよね。あるいは、川が流れていって海に流れ込む場所のことは「mouth of the river」と言い、日本語でも「河口」と言います。このようにメタファーというのは、手持ちの有限な語彙で無限な表現ができる、しかも基礎的な言語で。それを子どもたちがわかると、多彩な表現ができるようになります。小学生や中学校1・2年生くらいだと、結構喜んで新しい表現づくりにチャレンジするのではないでしょうか。
 こういうふうに自分たちのことばに意識を向けることで、子どもたちは言語生活を豊かにしていくのです。あるいはまだ知らない人との間にはいろんなコミュニケーションがあって、言語学者が未知の言語に出合ったときのように、あれこれやってみて、「あれをやったら通じなかった」「こうしたら伝わった」といった試行錯誤を繰り返しながら言語活動を広げていくこともできます。そういうことを体験させるような小学校の英語教育をすると、中学校・高校に行ってから、ことばの学習に広がりや深まりが出てくるんじゃないでしょうか。