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かったわけでもありません。私は、歴史的に権力を握って勝者となった側より、あまり脚光を浴びない人を発掘するのが好きで、時の流れに翻弄された人たち、つまり庶民・民衆の歴史を研究対象としています。歴史学を学ぶにあたって重要なこと平原:今後は、どのような研究をされていく予定ですか?細川:私は、1999年に『感身学正記』(平凡社)という本を出版しました。これは叡尊の自伝を活字にしたものですが、実は全2巻で完結するものです。今後は続きの注釈書を完成していこうと思っています。平原:今年2013年に出版された『日本中世の社会と寺社』は、先生の研究のまとめのように思ったのですが、この本のなかで学生が読むのにお薦めのところはどこでしょうか?細川:この本は、四部構成となっています。序論は、自分の研究の出発点において大きな影響を受けた研究者二人の著書と向き合ったものです。第一・二部は鎌倉仏教(律宗)中心、第三部は本学所蔵の北野天満宮の文書の解釈で、専門家向きです。第四部の源義経の妻と母の部分を、高校生や大学生にはお薦めします。全体としては、研究者向けの本かもしれませんが、歴史学を学ぶ皆さんには、読みやすいところからでいいので、読んでほしいですね。平原:私たち学生が専門書や論文を読むときに気をつけるべきことは何でしょうか?細川:二つあると思います。一つは、著者が論文や書物のなかで、新しいかたちで何を実証しようとしているのかを読みとることです。歴史学において、事実の確定をするために著者がどんな史料を用いて、どのようなことを結論として導き出そうとしているのか、ということを読み取るのがとても重要だからです。二つ目は、論理の展開を考えることです。今の歴史学は、事実の実証に走っている傾向がありますが、昔はもっと自由に論争し、大胆な説を立てることができたように思います。ですから、平原くんたちの卒論作成時にも、実証のために史料をきっちり読み込むことと同時に、自分なりの歴史的な論を大胆に打ち出してみることも必要なのではないでしょうか。歴史を学ぶ意義平原:歴史を学ぶことには、どのような意味があるのでしょうか?細川:例えばですが、東アジア近隣諸国と日本との関係において、歴史的な経緯から、特効薬的な解決の道はないのかもしれません。しかし、歴史を学ぶことによって、少し広いスパンで、近視眼的ではないかたちで、現状を相対化して俯瞰的に眺める視点を養うことができると思います。歴史上の人物、他者の人生を知ることによって、自分の未来が大きく見えてくることもあるのではないでしょうか。人の生き方には、絶対唯一の正解があるわけではないですし、人文科学においても正解はひとつではない。そうしたことを学生たちには学んでほしいですね。また、50枚にもわたる卒業論文を作成すること、つまり根拠を示しながら第三者にわかる論理的な文章を書く訓練をしたことは、社会に出てからも、どんな職業に就いても必ず役に立つと思います。細川先生には2年間ゼミでお世話になっていますが、今回は普段の授業では聞けない先生のルーツや歴史に対する考え、歴史を学ぶ意義など、とても興味深いお話を聞かせていただくことができました。また、私の卒業論文のテーマである「枯山水と山水河原者」は、細川先生の専門分野、特に仏教や庶民の文化の研究と重なる部分が多くあるので、今後もいろいろなお話を聞きながら論文作成を進めていこうと思います。インタビュアー『日本中世の社会と寺社』思文閣出版文学部歴史学科4回生平原 一馬 さん